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研修導入と研修ルール #1

2018年6月21日朝9時、スーパーホテル大阪本社の会議室において、50日間研修は「研修導入」から始まりました。

講師は、スーパーホテル人材開発部研修室の柴田さんでした。ユーモアを交えながら説明していました。しかし、我々は帰る家さえなく、財産は“スーツと着替えだけ”という決死の覚悟です。「4年で3,000万円が貯まる」仕事を獲得する大勝負、笑える精神状態にありませんでした。

6月21日の研修導入の様子(Super Dream Project 『ふたりごと』より)※現在は削除されています。

6月21日の研修導入の様子(Super Dream Project 『ふたりごと』より)※現在は削除されています。

会議室には、我々を含めて6組の研修生がいます。年齢層は50代が中心でした。講義の変わり目には、10分間のトイレ休憩もあります。驚くことに研修生のうち2組は、すでにFC(フランチャイズ)店への配属が決まっていたのです。

当時は、スーパーホテルの業務委託契約は、さまざまなタイプの業務委託があるのだなと思った程度でした。しかし、今から考えると、戦慄のビジネスモデルの1つを知った瞬間だとは夢にも思いませんでした。

綿密な研修計画が存在した

柴田さんは、つぎの2つを説明しました。今後、我々の体験談を語って行くうえで、「重要な時系列」にもなります。

「重要な時系列A・B」は、研修の「場所・時間・内容」などが網羅されています。「重要な時系列A」は、「50日間研修」の全体像を示しており、黄色に着色された部分は「本社研修」となっていました。

「重要な時系列A」6月生候補生オペレーションチェックシートB(当初計画)

「重要な時系列A」6月生候補生オペレーションチェックシートB(当初計画)

この本社研修は「重要な時系列B」に詳しく記載されています。

「重要な時系列B」 2018年6月生本社研修スケジュール(当初計画)

「重要な時系列B」 2018年6月生本社研修スケジュール(当初計画)

この研修は50日間で育成するために、“休日までも”が計画に盛り込む緻密なものでした。研修シフト、そのものです。我々はこの計画に従って、研修しなければなりませんでした。

まず、「重要な時系列A」の表記形式について、説明します。我々の宿泊先ホテルと実務研修するホテルは、同じ場所でした。「重要な時系列A」の通り「研修センター(スーパーホテルLohas地下鉄四つ橋線・本町24号口)」と「研修委託店舗(スーパーホテルJR新大阪東口)」の2つのホテルで研修が行われました。

つぎに下の写真は、「重要な時系列A」の一部を抜き出したものです。最上部の「日付」の欄には、水色で「1」と示しました。この「日付」欄を「1欄目」とすると、2欄目には「D1~50」までの連番が記載されています。これは「DAY1~DAY50」のことで日数を表しています。

「重要な時系列A」の表記形式(1~5欄目)

「重要な時系列A」の表記形式(1~5欄目)

3欄目には「勤務時間(休憩時間)」もしくは「独自運営」や「支配人・副支配人の時間帯」「本社研修」など別に時間が定められている場合の呼び名が記載されていました。

4欄目には、その日ごとに実施すべき実務研修の「研修課題」と「実施時間」などが記載されています。そして、5欄目には、数日間を連続して実施すべき「研修課題」が記載されていました。また、特別なその日だけしか行われない「確認テスト」なども記載されています。なお、「実施時間」は4欄目で研修した時間帯なので記載されていません。

たとえば、7月1日の4欄目にある「10:00 経理」と記載の通り、実務研修が行われます。その際、「経理マニュアル」が配布されました。そして、5欄目には青字で「経理」と記載され、7月5日まで毎日10時から経理マニュアルを見ながら研修しました。

6欄目は「経営品質部臨店」という「接客テスト」を行うもの。また、「業務企画G面談」などの予定を記載することになっています。たとえば、7月5日には「業務企画G 面談」と記載がありました。うすい「赤ペン」で手書きの矢印が7月4日へと日程変更されたのがわかります。

「重要な時系列A」の表記形式(6欄目)

「重要な時系列A」の表記形式(6欄目)

私の研修レポートを見ると7月4日の「本日の業務及び研修内容」には、確かに「面談(近藤さん+柴田さん)」と書いており、面談が行われた事実が確認できます。

7月4日の研修レポート

7月4日の研修レポート

そのつぎに「重要な時系列B」について、書きます。

基本的に「本社研修」の講義は、7時間労働の1時間休憩です。「本社研修」は、開催された6月21日(第1回)及び22日(第2回)、7月9日(第3回)及び10日(第4回)を対象としています。なお、第3回は講義の時間が30分ほど増えています。

別で書きますが、「重要な時系列A・B」ともに「当初計画」となっているのは、途中で計画が変わるからです。さらにスーパーホテルは、この変更にも新たな計画を作成して、我々に研修を命じる徹底ぶりでした。

先行投資のリターンを期待される

講師は、スーパーホテル人材開発部研修室の長谷川さんに変わりました。彼女は、研修ルールをつぎのように言い表します。そして、当面の目標も示しました。

研修の進みが悪かったり、予習や復習せず理解度が低かったりすると、その場で研修終了します。まず、応用編の業務委託店に進むには、研修センターで基礎をマスターして下さい。

そして、講師は長谷川さんからスーパーホテル人材開発部トップの高森次長に代わり、つぎのことを静かに我々に言いました。

研修生のみなさんに、当社は大きな先行投資を行っています。それを忘れずにリターンを研修で返す気持ちでやってください。

この言葉に、我々は身が引き締まった思いがしました。

なお、実務研修する店舗は「重要な時系列A」の研修店舗欄に「スーパーホテルLohas地下鉄四つ橋線・本町24号口」と「スーパーホテルJR新大阪東口」の記載があります。

はじめのホテルは、スーパーホテルの社員が運営する「直営店」の研修センターで、あとのホテルは業務委託された者が運営する研修委託店舗のことです。長谷川さんが言った“業務委託店”とは、このことを意味しています。

習得する課題は、とにかく膨大です。少し前に長谷川さんの言葉で「予習や復習せず、理解度が・・・」と引用しました。これは、講師の彼女自身が“予習・復習”なしに消化できないボリュームなのだと、よく理解している発言だったと思いました。

6月21日と22日の本社研修では、約180枚もの教材が配布されます。さらに7月9日と10日の時点では、約240枚以上に増えました。

これら教材は、全社共通で運用されるマニュアルをわかりやすく解説した資料です。我々は、ひたすら読み思い出して、実践する毎日を送りました。

1人あたりの教材配布状況

1人あたりの教材配布状況

社員よりも厳しい労働環境

長谷川さんは「研修期間中の取り組み姿勢について」という紙を配布しました。この紙には、“研修規則”が具体的に紹介されています。たとえば、研修は時間厳守、個人の判断で逸脱する行動、研修レポートは毎日提出などの決まりがありました。

しかし、彼女は触れていませんが、研修参加前に返送するよう指示された「申込書」や「誓約書」などには、もっとたくさんの規則が書かれていたのです。

たとえば、「研修参加5つの書類」の「スーパーホテル研修受講に関する誓約書及び申込書」には「(注:ホテル業務委託要項を準用1-9、業務委託契約を準用10-15)」という見たこともない契約書などが準用されていました。

「研修参加5つの書類」の「A・B」は原本提出で詳細不明でしたが、裁判証拠でスーパーホテル側のものが出て来ました。「D」は、研修合格後の条件について書いてあります。「C」と「D」は、条項の重複が多くあります。「研修期間中の取り組み姿勢について」以外に、つぎのような「禁止事項」がありました。

禁止事項

  • 業務への適性がないと判断した場合
  • 遅刻、外泊及び本人以外の客室宿泊させる行為
  • 全社員共通の身だしなみ規則を無視する行為
  • 研修指導者の指示に従わない行為
  • 言動による同社への名誉棄損
  • 業務遂行以外の同社名及び印章の使用する行為
  • 業務に支障が生じる虞のある既往症を隠蔽する行為
  • 宿泊客や関連業者から苦情が頻繁となる行為
  • 法令違反
  • 同社の社員を名乗る行為
  • いずれか1人でもいかなる理由であっても連続3日以上休む
  • 提出すべき課題を期日までに提出しない
  • 社員の行動指針であるフェイス(Faith)に賛同せず実行しない
  • 同社ISO活動に賛同せず従事しない
  • 研修内容に賛同しない
  • 刺青・ファッションタトゥーが体にある

また、この研修には、つぎのような「報酬など待遇」が用意されていました。

報酬などの待遇

  • 健康診断は1万円(消費税込み)まで会社負担
  • 自宅から研修場所ならびに研修場所間の交通費支給
  • 研修中の宿泊費支給
  • 日給1人当たり8000円支給(休日は除く)
  • 研修中の洗濯費支給(館内コインランドリー洗濯・乾燥200円/日)
  • 競合ホテル宿泊研修費(4泊分)

我々は、スーパーホテルの社員の服務規律に加えて、さらに厳しい拘束を受ける「研修規則」に従いました。その程度は別で書きますが、「私の父が死のうと厳守」が求められるものです。その対価として、スーパーホテルは食費以外の滞在費ほぼすべてを負担し、日給まで支払う「待遇」を用意しています。

研修は社員教育そのもの

「研修期間中の取り組み姿勢について」の説明が終わり、裏面の「支配人、副支配人として必要なこと」という内容に話が移ります。

高森次長は「2024年には200店にする計画がある」と言って、話をはじめました。彼の話によると「若い世代」を取り込むブランディングを開始するとの話がありました。

「支配人、副支配人として必要なこと」、6月21日本社研修「研修導入」配布資料より

「支配人、副支配人として必要なこと」、6月21日本社研修「研修導入」配布資料より

こうした事業全体の大きな話は、印象に残りやすく今でも記憶しています。また、それ以外にも印象に残ったことが、あと2つありました。

1つ目は、この紙にあった「経営者意識」です。私は「え、これからホテルの運営事業を経営するんじゃなかったの? 」と見た瞬間に思いました。「満室へのこだわり」「売上の最大化」という言葉は、我々に誤解を生じさせます。スーパーホテルの社員に教育するときの話だと思ったからです。

しかし、よく高森次長の話を聞いていると、我々が受け取る報酬のように「ホテルの売上」を考えてほしいということです。よく会社で言うような「自分の会社のように仕事しろ」という言葉と同じでした。高森次長の説明する意図がわかり、私はやはり社員教育を受けているのだなと思ったことを記憶しています。

2つ目は「年間2回の総会、エリアミーティング」です。私は、“スーパーホテル社員”になったと思いました。全国の業務委託の支配人・副支配人が、それぞれ「支配人総会」と「副支配人総会」に年1回出席する義務があることです。また、エリアミーティングも支配人と副支配人のミーディングがそれぞれ3ヶ月に1回行われ、氏家さんと私が出席する義務がありました。

この紙から判断すると、我々はスーパーホテルの社員になったようにしか思えないものでした。なぜなら、「独立した自由で裁量のある事業者」に義務づけを行うことなどある訳がないからです。

社員の服務規律を求められる

長谷川さんは、「フェイス(Faith)」の内容を習得するのが「研修」だと言っていました。英語でFaithは“信仰”を意味し、クレジットカードのサイズの紙を三つ折りした経典のようなものでした。リッツカールトンの“クレド”をまねたそうです。

Faith(6月版)

創業の精神(Faith)(6月版のフェイス)、6月21日本社研修「SH概要」配布資料より

「フェイス」を全員で唱和することを「フェイスアップ(FaithUp)」といい、配られたマニュアルによると「スーパーホテルの理念を浸透させるため、毎日行う朝礼」でした。これをスーパーホテルでは「理念の共有」と呼んでいました。新しく出勤者があれば、その都度行いますから朝礼と夕礼のようなものと言えます。

フェイスアップ」の手順は、支配人もしくは副支配人の司会進行で、つぎの順番で行われます。

「フェイスアップ」の手順

  1. 身だしなみチェック
  2. 業務連絡
  3. Faithの唱和・コメント・コメントフィードバック
  4. 目標売上と現状の売上の確認
  5. 経営品質・じゃらん数値のポイント確認
  6. スマイル体操
  7. 接客10大用語唱和

最後にフェイスアップ終了後、フェイスアップカレンダーに印鑑を押します。なお、氏家さんが雇用したアルバイトの制服レンタル代など、すべてスーパーホテルの負担です。スーパーホテルよりアルバイト採用時は、すぐ印鑑をつくるよう指示されています。

印鑑が押してあるフェイスアップカレンダー

実際のフェイスアップカレンダー

こうした“フェイス”には、スーパーホテル創業者の山本梁介会長がつくった「創業の精神」をベースにした「経営理念」などがコンパクトにまとめられています。「創業の精神」とは、会長自らが「創業の精神の制定について」で意義を説明しています。「創業者・山本梁介」の「思い」や「生き様」などが投影されたものだそうです。

「創業の精神の制定について」、6月21日本社研修の配布資料「創業の精神」より

「創業の精神の制定について」、6月21日本社研修の配布資料「創業の精神」より

会長によると「当社の企業文化・組織風土の根本」は、“創業の精神”に集約されているそうです。そして、「社員一人一人」に、これらのことを「しっかり頭に入れておいてください。」と命じていました。

たとえば、フェイスにある“経営理念”は、「経営理念の改定について」にあります。それは「『創業の精神』をベースにして、会長山本梁介の経営哲学・生き方・価値観を表現したもの」だそうです。“経営理念”は、「社員の行動規範」などを定めた「憲法」と言えるものだと書いてありました。

「経営理念の改定について」、6月21日本社研修の配布資料「経営理念」より

「経営理念の改定について」、6月21日本社研修の配布資料「経営理念」より

それゆえに長谷川さんは、社員と同じく我々にも“フェイス”を常に携帯して、スーパーホテルの研修センターや本社研修においても、フェイスアップするよう命じました。

この研修導入で講師が言ったことについて、私は「今は研修生(スーパーホテルの社員)」なのだから、当然だと思ってしまいました。研修生は、スーパーホテルの社員なのだから「社員の行動規範」をしっかりと身につけてほしいと考えていると納得してしまいました。

しかし、これは、我々の“大きな勘違い”だったのです。

証拠・資料

重要な時系列A

重要な時系列B

Faith-up_Calendar

SuperHotel_Faith