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「4年で3000万円たまる」求人広告 #1

日本は36年前に労働法に関して「法治国家」をやめていた

2020年5月28日霞ヶ関、私は厚労省の記者会見室にいました。会見場所には、たくさんの報道関係者が座っていました。どこから撮影されているのか、わからないほどたくさんのフラッシュを浴びました。

この日、「ホテルのやり方はとてもひどい」と言った私の言葉は、スーパーホテル事件として日本中で報道されました。

私は、スーパーホテルJR上野入谷口で副支配人をしていた渡邉亜佐美と申します。このホテルの支配人だった(仮名)氏家さんと一緒に宿直室に住み込まされて「553日間の無休労働」をしていました。

スーパーホテルとは、ビジネスホテル・チェーンのホテルの名称です。「株式会社スーパーホテル」が運営しており、本社は大阪にあります。ビジネスホテルは、ビジネスパーソンをターゲットにした“出張者専門”のバジェットホテルのことです。

我々は、このスーパーホテルにだまされて、365日24時間無休で宿直室に住み込んで働く「スーパーホテル業務委託契約」に署名捺印させられました。

契約名が「雇用契約」ではないので、「自由な裁量のある独立した事業者」として、我々は殺人的軟禁状態での無休労働を自ら選択して、働いていたように捏造されました。日本では、こうした我々のような業務委託契約で働く人々をつぎのように呼んでいます。

名ばかり個人事業主 (国際労働機関はDisguised Employmentと呼ぶ)

名ばかり個人事業主とは、日本の労働基準法の「労働者」ではないために労働法が適用されない存在です。つまり、役務提供という契約内容で「個人の奴隷化」が事実上行えるのです。

日本の「労働者」とは、中曽根内閣の労働大臣の私的諮問機関が提出した「労働基準法研究会報告(労働基準法「労働者」の判断基準について)昭和60年12月19日」という判断基準によって、労基署が判断しています。この基準は驚くことに「法律」ではなく、厚労省のただの「内部規則」でした。

憲法27条2項が制定させた労働基準法の9条には、つぎのように定められています。

この法律で「労働者」とは、職業の種類を問わず、事業又は事務所(以下「事業」という。)に使用される者で、賃金を支払われる者をいう。

というように普遍的な定義づけがされています。しかし、この労働基準法9条の定義ではなく「昭和60年報告」によって、つぎの6項目を「総合的に労働実態」から判断することに変わりました。

昭和60年報告の労働者判断基準(6項目)

  • (1)業務指示などが拒否できない
  • (2)業務遂行上の指揮監督がある
  • (3)場所的・時間的拘束がある
  • (4)業務を代行できず誰も雇用してない
  • (5)報酬が社員と大差なく欠勤控除などがある
  • (6)補完的要素(事業者性、専属性など)

この報告書第1の2には、「現実には、指揮監督の程度及び態様の多様性、報酬の性格の不明確さ等」から上記の6項目を提起したことになっています。

労働基準法の「労働者」の判断基準について(抜粋)

労働基準法の「労働者」の判断基準について(抜粋)

しかし、実際に雇用された労働者の労働実態と適合せず、その説明ができない“破綻”した基準でした。しかも、最高裁判所がこの基準を採用した判例があるために、1986年頃から36年間近く日本の労働において、行政や裁判所が重視して来ました。

たとえば、保険外交員のような「雇用労働者」だと、契約獲得が優先され「誰に・いつ・どこで」売るか裁量があり、(2)と(3)は該当しません。また、(4)は他の社員が代行できないと前提に立っていますが、休暇は他の社員が代行できるからこそ取得できるのです。雇用主となることさえ除けば、まったく現実を無視したものでしかありません。

この雇用に関するものをさらにチェーン店ビジネスで考えます。一般的に運営会社とその直営店舗で働く従業員は、雇用契約を結んでいます。しかし、店舗の“店長と従業員”で雇用契約を結ばせる「労働実態の捏造」ができれば、(4)が該当しません。運営会社はその店舗の使用者責任から解放され、膨大なコストが削減されます。

つまり、破綻した基準ばかりでなく「労働実態の捏造」という悪用をされると、不正が見抜けない最悪の代物でした。その結果、日本では発明ではなく「現代奴隷制度」という脱法行為が政府公認のビジネスとなっているのです。

現在、労基署が「どちらか判断できない」という主張から事業者扱いされて、裁判所でも「労働者と判断できないから和解しろ」となかば脅しのように言われ続けています。我々は、裁判書面の膨大な作成や証拠探しに追われて働けない状態となり、多くの債務を抱えるなか2年以上が過ぎました。

おまけにプレジデントオンラインやまぐまぐにおいて、スーパーホテルが個人情報保護法を破り、和田秀樹氏に暴露したとする「フェイクニュース」の誹謗中傷を受けました。さらに和田氏は、スーパーホテルのスラップ提訴の代理宣言までしています。

実際、和田氏の宣言から約4ヶ月後、約3,700万円もの賠償請求する訴え(スラップ訴訟)が起こされて、東京新聞朝刊の「特報」になっています。

2020年3月24日、株式会社スーパーホテル現代表取締役副会長山本晃嘉の指示のもと、奥森賢治部長芝原邦佳次長内田辰也課長、大木育直営総支配人の男性社員5名が暴力によって、脅迫や監禁まで行った末、公的住所地と仕事から追い出されました。

最初の4月10日の記者会見の後も、ホテル暮らしでした。誰も救済せず、問題視することもなく、社会と政府機関の無関心のまま、今日に至ります。すでに株式会社スーパーホテルは得意の隠蔽工作を行い、労基署や警察、裁判所が時間を稼いでいるかのような様相を呈しています。

2022年、2月28日の参議院予算委員会、吉良よし子議員はスーパーホテルの働き方の問題を指摘しており、後藤厚労大臣は昭和60年報告で「労働者と認められる場合には是正に向けた指導を行っている」と答弁しています。また、岸田総理も判断できない昭和60年報告で「しっかりと対応してもらわなければならない」と答弁しています。

こうした日本社会のなかで起きている「日本版現代奴隷制度」について、私と氏家さんが実体験していることを詳しく書きたいと思います。

なお、「名ばかり個人事業主」と「昭和60年報告」については、リンク先で詳しく紹介しています。そちらを見て下さい。

きっかけはIndeedの求人広告

2018年4月18日深夜、求人サイトIndeedで「4年で3000万円貯金して夢叶える人続出」という求人を私が見つけたことが、すべてのはじまりでした。

この求人は、スーパーホテルの「SUPER DREAM PROJECT」というもので、スーパーホテルが「オリジナル求人」と呼んでいます。

the job classification on Indeed

Indeedに掲載されていた㈱スーパーホテルの求人広告

私と氏家さんは会社を設立し、観光関連の事業をはじめました。しかし、事業が軌道に乗らず、あと4ヶ月分の運転資金となります。お金がなく電源のある環七のマクドナルドで、パソコンを充電しながら求人を探していたとき、冒頭の求人を見たのです。

嘘でなければ、まさに起死回生の大チャンスでした。

Indeedの「求人を見る/応募する」というボタンをクリックすると、スーパーホテル支配人・副支配人募集の求人サイトへリンク(https://kyujin-superhotel.com/offer-list)が飛びました。なお、提訴後、「当時の求人広告1」と違う嘘の内容に変えています。

説明会の状況を知るため、スーパーホテルへメールしました。

当時、あらゆるスーパーホテルの求人広告には、募集条件のなかに「【唯一にして絶対の条件】」として「4年間同居が可能な男女ペア」となっていました。ホテル業界の未経験者でも大丈夫、初期投資ゼロ円、家賃や光熱費は不要となっていたのです。

「SUPER DREAM PROJECT」は、起業や脱サラの希望者が集まる“起業家育成塾”のようなイメージを感じさせていました。たとえば、つぎのような記載があります。

毎日経営業務は発生するため、それほどお金を使う時間がありません。それゆえに、かなり貯金することができます。4年後、貯金したお金で自分の店を開く方、ホテル経営を続ける方、会社を立ち上げる方、たくさんいます。

SUPER DREAM PROJECTで大成功をした先輩方とは連絡が取れる状態です。このコミュニティを存分に活かすことが、自分の夢に更に近づけるポイントです。

the job description

応募当時に掲載していた求人の内容

報酬は、4年間で“4,650万円以上”となっており、契約年数が長いほど報酬が増えるしくみになっていました。さらに「奨励金+業績報奨金」もあります。なお、広告代理業ビズブリッジの「当時の求人広告2」から引用すると、つぎの通りです。

「応募の求人広告2」に掲載されていた報酬制度(抜粋)

「応募の求人広告2」に掲載されていた報酬制度(抜粋)

重要なポイントは、3,000万円を貯められる根拠を判明させることでした。言い換えれば、毎年750万円を貯められる根拠を探すことです。

じつは、氏家さんはコンビニオーナー経験があり、人件費や連帯保証人などについて、すごく心配していました。たくさん儲かるような話でも、オーナー自身の長時間の労働提供によって、利益がやっと出るしくみだと考えていたからでした。

スーパーホテルの「スーパーホテル 支配人・副支配人募集説明会予約サイト」だけでなく、さまざまなサイトで求人広告を掲載していました。ざっと調査してみると、「ホテル1棟の業務委託」だとわかります。つまり、スーパーホテルごと貸し出して、運営面を“我々に業務委託する”ものだということでした。

最低1名が常駐する体制を見積もると

初年度の報酬は、最低保証が1100万円でした。ホテルは24時間営業の施設なので、法定の24時間シフトが必要なはずです。我々は、最低限1名が常駐する体制を見積もってみました。

当時の東京都の最低賃金は958円です。24時間のうち22時~5時の7時間は25%の深夜割増がつきます。各時間帯の賃金を試算すると、つぎのようになります。

通常勤務の賃金は、17時間×958円=16,286円
深夜勤務の賃金は、7時間×958円×1.25=8,383円

上記を合計した1日1人あたりの賃金は24,669円。そして、「1年あたりでは9,004,185円」となります。

1日あたりの賃金/人の合計は、16,286円+8,383円=24,669円
1年間あたりの人件費は、24,669円×365日=9,004,185円

たとえば、休憩なし6時間労働(法定最長)×4人の“24時間シフト”をつくることができるでしょう。報酬1,100万円から先ほどの1年当たりの人件費約900万円を差し引くと、200万円しか手元に残らないではありませんか。やはり、スーパーホテルの求人広告は、“嘘なのか!” と思いました。

スーパーホテルの求人サイトに「4年で3,000万円たまる」理由が…

諦めかけたとき、スーパーホテルの求人サイトの「よくあるご質問『業務内容について』」に重要な答えがあったのです。

Q アルバイトの費用は、個人負担ですか?
A 部屋数に応じたアルバイト補助金をお支払いいたします。

と、記載があったのです。

よくあるご質問『業務内容について』

株式会社スーパーホテル求人サイトのよくあるご質問『業務内容について』(抜粋)※現在は削除されています。

起死回生のチャンスとなるのか、まだ不確定な要素がありましたが、とにかく“4年で3,000万円貯まる”根拠を見つけることができました。我々は不安な要素など、つぎのようにまとめます。

確認事項

  • アルバイト人件費の負担は誰
  • 連帯保証人は必要なのか
  • 契約期間は本当に4年間なのか
  • 法人契約はできるのか

こうして、我々は説明会に申し込むことにしました。

スーパーホテル支配人採用グループの近藤次長より「【スーパーホテル】支配人募集:説明会日程のお知らせです。」というメールが届いていました。4月19日の昼すぎ、我々はこのメールに返信して、直近の開催予定だった“4月21日”の説明会に申し込みました。なお、スーパーホテルの社員の所属等については、2018年8月1日現在のものとなっています。

証拠・資料

労働基準法の「労働者」の判断基準について

当時の求人広告_1

当時の求人広告_2

当時の求人広告_3

よくあるご質問『業務内容について』

RE: 【スーパーホテル】支配人募集:説明会日程のお知らせです。