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ホームレスにする選考過程 #3

我々は、選考に残るために応募書類を懸命に作成しました。1次選考は、書類審査でした。応募書類は、就職の際に要求される履歴書・職務経歴書です。そして、所定の応募書類には、『叶えたい夢について』というものがあり、設問に従って記入するようになっていました。

左上に「2016.5.30 Super Dream Project説明会」と印刷された「『叶えたい夢について』(具体例)」という見本を参考にして書きました。この見本によると設問⑤には、我々の家庭状況を詳しく知らせるものとなっていました。それは「⑤ あなたを取り巻く環境について記入してください。家族の理解・協力。子供の教育、親の扶養。必要な資金など。」というものです。

『叶えたい夢について』(具体例)設問⑤

『叶えたい夢について』(具体例)設問⑤

我々は、家庭の事情などを書きたくありませんでした。事業ではなく、「家庭状況に注目する」理由が理解できないからです。

金融機関での融資の際、社長の氏家さんが事業計画書と一緒に「履歴書と職務経歴書」を出したことがありました。しかし、我々の家庭の状況などが知りたい金融機関を聞いたことがありません。

スーパーホテルが何を求めているのか、まったく理解できませんでした。そこで、氏家さんのお父様の状態だけ書くことにしました。あと事業計画の概要書をつけて、「提出した『叶えたい夢について』」を完成させます。

こうして、我々はスーパーホテルへ期限までに郵送しました。

2018年5月19日、2次選考に進めることを知らせる「【ご返信くださいませ】面接のご案内/スーパーホテル山佳」というメールがスーパーホテルより届きます。選考は、筆記試験15分間、面接が60分間となっていました。

我々の自宅退居などが研修参加の条件

今になって、あのときの面接を思い出すと、“恐怖”や“後悔”を覚えます。

面接官は、スーパーホテル人材開発部トップの高森次長近藤次長の2人です。彼らは、我々の家族構成や家庭の事情ばかり質問しました。我々は警戒して、『叶えたい夢について』の設問⑤にあった「家族、子供、親族」などの情報について、詳しく書きませんでした。そのため面接官は、自宅は持ち家か賃貸か、両親の職業などについて、詳しく質問しました。このような質問のあと、つぎのような会話となります。

高森次長スーパードリームプロジェクトは、起業家を応援する主旨なんです、このご縁を大切にしたいんです。

氏家そう思います、だから何としても御社で働きたいんです。

近藤次長 借金はありますか?  いくらぐらいですか?

2人合わせて500万円くらいあります。

高森次長安心しました、ぜんぜん返せる額じゃあありませんか。本当に借金なんかすぐ返せます。

頑張って働いて、夢の実現をめざしたいです。

近藤次長車は持ってますか? 

氏家私が持ってます。

近藤次長あー持ってるんだ。店舗には宿泊者以外の駐車場はないんです。車は廃車ですね。全国のスーパーホテルを転々とするので、車は使わないですよ。

氏家ええ、そうですか。まあ、仕事が決まれば、廃車にします。

高森次長正直に教えて頂けたので、我々もはっきり言います。我々が本当に知りたいのは“お二人の覚悟”なんです。

高森次長が口にした“覚悟”とは、我々に「リスクをとれ」と言っていたのです。「4年で3,000万円たまる仕事」を得るため、自宅退居などで「全国転勤できる」と我々に証明しろというものでした。

一般的な事業者間の契約であれば、「発注条件と金額」だけの話です。「受注者の自宅など」は、話題にもなりません。しかし、高森次長は、つぎのような「生活基盤を捨てる」という覚悟を見せろと促すよう言いました。

高森次長もし、研修参加が決まったら、自宅はどうされますか?

我々自宅?  我々の自宅に何か問題があるんですか?

高森次長これまでの研修生は、ほとんどが家財を倉庫に保管していましたよ。

氏家自宅を引き払っているんですか?

高森次長ええ、研修前に家を貸出すか、売り出すとよく聞きます。全国転勤の仕事なので、どこに配属されるかわかりません。空いているホテル(業務委託していないホテル)に入ってもらうんですから。こちらとしては、行ってもらうか辞めるかを決めて頂くしかないんです。

氏家我々の場合は、実家に住んでいるのと都営アパートなんで、都営アパートは引き払う必要があるということなのですかね?

高森次長はい、そうなんです。研修参加から店舗着任まで1週間程度しか時間がありません。この間(選考期間)で、準備して頂くしかないと思います。

なるほど、そうなんですか。

高森次長だから“覚悟”が必要なんですよ、やり抜く“覚悟”が。よくお二人で話し合ってください。

氏家はい、よく検討する必要があるということ、ですね(2人とも硬い表情のまま答えた)。

選考結果はいつわかるのでしょうか?

高森次長追って通過された方には、前回と同じくメールでお知らせします。とにかく“覚悟”を決めてください!

こうして面接は、突然、終了しました。

2次選考を通過したのかわからないのに、自宅処分や家族の生活を決める“覚悟”などできず、メールをひたすら待ちました。

10日後の2018年5月30日、スーパーホテルより突然「6/1の詳細について/スーパーホテル山佳」というメールによって、次の選考日時などが案内されました。その2日後の6月1日、前回と同じ筆記試験15分、面接60分間がありました。

我々は、前回の“覚悟”を面接で伝えることになっていました。

面接官は、高森次長とスーパーホテルコンサルタント部東日本エリア芝原次長でした。さまざまな過去の研修生の事例を挙げて、覚悟することの重要性を力説していました。高森次長は、つぎのように言います。

創業から一度もトラブルはないんです。信じてください!

我々は、高森次長が連呼する「信じてください」で決心を固めて、都営アパートを引き払うことなどについて、「わかりました」と答えました。

最終選考、面接官の表情は達成感に包まれた

その瞬間の面接官2人の表情を今も忘れることができません。

面接官らの表情は、「とうとう覚悟を決めたか」という我々への連帯感や歓迎するムードではありませんでした。面接官ら自身が何かを成し遂げた“達成感”を表わす表情をしたからです。

氏家さんは、お父様が高齢で認知症でした。親子2人で、都営アパートに住んでいます。お父様は、完全看護の病院に長期入院が続いています。もし氏家さんが、自宅を手放すことになったら、親子揃って住む場所を失います。

最悪の場合、彼のお父様は命の危険さえあります。自宅を失った状態で、氏家さんはお父様の面倒を見ることもあり得るからです。お父様は口から食べ物を飲み込むことができず、“胃ろう”というお腹の外と胃をつなげる手術をしていました。そのため食事は、医療用栄養剤を胃へ直接入れる状態です。

高森次長と芝原次長は、こうした事情も知りつつ我々に自宅退居などを求めました。まさに「信頼なくして」は、あり得ない状況だったのです。

翌日の6月2日、高森次長より「合格」との連絡が氏家さんの携帯に入りました。

証拠・資料

見本_『叶えたい夢について』(具体例)

提出した『叶えたい夢について』

【ご返信くださいませ】面接のご案内/スーパーホテル 山佳

6/1の詳細について/スーパーホテル 山佳